バイクの鍵をなくして鍵屋に見積もりを依頼した際、自分のバイクに「イモビライザー」が搭載されていることを初めて知り、その作成料金の高さに愕然とする人は少なくありません。ギザギザの鍵なら1万円台で済むものが、なぜイモビライザー付きだと数万円、時にはそれ以上の高額な費用になるのでしょうか。その理由は、イモビライザーキーの作成が、単なる金属の複製ではなく、「高度な電子情報の再設定」という、全く異なる次元の作業を必要とするからです。イモビライザーとは、車両盗難を防止するための電子的な認証システムです。キーの持ち手部分に埋め込まれたトランスポンダと呼ばれるICチップには、一台一台固有のIDコードが記録されています。エンジンを始動させる際、バイク本体のECU(エンジンコントロールユニット)が、このキーのIDコードを読み取り、事前に登録されたコードと一致するかどうかを照合します。コードが一致しなければ、たとえ鍵の形状が合っていても、エンジンには点火信号が送られず、始動することができません。このため、イモビライザーキーを全て紛失した状態から新しい鍵を作るには、三つの複雑な工程が必要になります。第一に、鍵穴から鍵の物理的な形状を読み取り、金属部分を削り出す作業。第二に、ICチップが内蔵された特殊なキーブランク(純正または同等品)を用意すること。このキーブランク自体が、通常の鍵よりもはるかに高価です。そして第三に、最も専門的な技術を要するのが、新しいキーのIDコードを、バイクのECUに登録する「イモビライザー登録」という作業です。これには、専用のコンピューター診断機器(スキャンツール)をバイクに接続し、ECUにアクセスして、紛失した古いキーの情報を削除し、新しいキーの情報だけを書き込むという、さながらハッキングに近い高度な知識と技術が求められます。つまり、イモビライザーキーの作成料金の大部分は、この特殊な電子作業に対する技術料と、専用機材の使用料なのです。それは、あなたの愛車を盗難から守るための高度なセキュリティシステムを再構築するための、正当な対価と言えるでしょう。