それは、新緑が目にまぶしい、絶好のツーリング日和の週末でした。私は仲間たちと、景色の良い山道のワインディングを楽しんだ後、山頂の休憩所で一休みすることにしました。眼下に広がる絶景を眺め、缶コーヒーを飲み干し、さあ出発しようと愛車の元へ戻った時、事件は起きました。バイクの鍵が、ないのです。ライディングジャケットのポケットを探っても、タンクバッグの中を探っても、あの小さな金属の塊は見当たりません。血の気が引き、頭が真っ白になりました。仲間たちにも手伝ってもらい、休憩所の周辺をくまなく探しましたが、鍵は影も形もありませんでした。おそらく、走行中にポケットから落としてしまったのでしょう。ここは携帯電話の電波もかろうじて届くような山奥です。レッカーを呼ぶにも時間がかかるし、費用も計り知れません。途方に暮れていた私を見かねて、仲間の一人が「出張の鍵屋さんを呼んでみたら?」と提案してくれました。私は藁にもすがる思いでスマートフォンを取り出し、「バイク 鍵作成 出張」と検索。いくつかの業者の中から、ウェブサイトの雰囲気が誠実そうで、料金も明記されていた一社に電話をかけました。事情を話すと、オペレーターの方は落ち着いた口調で対応してくれ、おおよその料金と、1時間半ほどで到着できることを伝えてくれました。待っている時間は永遠のように感じられましたが、約束通りにサービスカーが到着した時の安堵感は、今でも忘れられません。作業員の方は、まず私の免許証と自賠責保険証で本人確認を行うと、すぐに作業に取り掛かってくれました。鍵穴に特殊なスコープを差し込み、内部の構造を覗き込みながら、手元の機械で鍵を削り出していく様子は、まさに職人技でした。そして、作業開始から30分ほどで、新しい鍵が完成。イグニッションに差し込んで回すと、聞き慣れたエンジン音が響き渡りました。その場で支払った料金は2万円弱。決して安い金額ではありませんでしたが、レッカーを呼んでディーラーに持ち込む手間と時間を考えれば、納得のいく出費でした。この一件以来、私は必ずスペアキーを財布の中に入れておくようにしています。あの日の絶望と安堵の経験は、スペアキーの重要性を私に深く教えてくれました。