電気で動くという性質上、電気錠について多くの人が抱く素朴な疑問、それは「もし停電になったら、ドアはどうなるの?」というものでしょう。建物に閉じ込められてしまうのではないか、あるいは逆に、誰でも入れてしまう無防備な状態になるのではないか。こうした不安を解消するため、電気錠のシステムには、停電という非常事態に備えた、二つの重要な安全思想(フェイルセーフとフェイルセキュア)が組み込まれています。まず、「フェイルセーフ(Fail Safe)」という考え方です。これは、システムに異常が発生した際に、人々の安全(Safe)を最優先する側に動作するという設計思想です。電気錠においては、停電時に自動的に「解錠」される動作を指します。これは、火災などの災害発生時に停電が起こった場合、中にいる人々が避難経路を確保し、スムーズに建物の外へ逃げられるようにするためです。そのため、オフィスの執務室の扉や、マンションの共用部の扉、病院の病室など、人の避難経路となりうる場所には、このフェイルセーフ設計の電気錠(通電時施錠型)が設置されるのが一般的です。閉じ込めによる二次災害を防ぐという、人命を第一に考えた仕組みです。一方、「フェイルセキュア(Fail Secure)」は、異常発生時に、セキュリティ(Secure)を最優先する側に動作するという設計思想です。電気錠では、停電時に「施錠」状態が維持される、あるいは自動的に施錠される動作を指します。これは、たとえ停電になっても、外部からの不正な侵入を防ぎ、建物内の資産や情報を守ることを目的としています。そのため、建物の外周を守る通用口や、サーバールーム、金庫室、研究室など、高い防犯性能が求められる場所には、このフェイルセキュア設計の電気錠(通電時解錠型)が採用されます。もちろん、停電時に備えて、ほとんどの電気錠システムにはバッテリーが内蔵されており、即座に機能が停止するわけではありません。しかし、そのバッテリーが切れた後、最終的にどちらの状態になるかは、その扉が持つ役割によって、あらかじめこのように設計されているのです。