それは、何の変哲もない平日の朝のことでした。出勤前の慌ただしい時間、私はいつものようにトイレに入り、習慣で内側のドアノブについている小さなツマミを回して内鍵をかけました。用を足し、さあ出ようとツマミを戻そうとした瞬間、異変に気づきました。ツマミが、回らないのです。まるで固まってしまったかのように、びくともしません。最初は軽く考えていました。少し力を入れれば動くだろう、と。しかし、何度試しても結果は同じ。じわじわと、背中に冷たい汗が流れ始めました。トイレは窓のない狭い空間です。携帯電話も持ち込んでいません。大声で叫んでも、家族はすでに外出しており、静かなマンションの一室では誰にも届きそうにありませんでした。時間が経つにつれて、焦りは恐怖へと変わっていきました。このまま出られなかったらどうしよう。遅刻どころの話ではない。そんな絶望的な考えが頭をよぎりました。私は必死にドアノブをガチャガチャと揺さぶりましたが、状況は変わりません。その時、ふとドアノブの中央に小さなマイナスの溝があることに気がつきました。以前、何かの記事で、こうした室内の鍵は緊急時に外からコインなどで開けられるようになっている、と読んだ記憶が蘇りました。もちろん、私は内側にいるのでコインは使えません。しかし、同じ原理で、内側から何かでこじ開けられるかもしれない。私はポケットを探り、幸運にも入っていた百円玉を取り出しました。そして、その縁をツマミの根元の隙間にねじ込み、てこの原理で少しずつ動かしてみました。すると、ギギギという鈍い音と共に、固着していたツマミがわずかに動いたのです。希望の光が見えた私は、何度も同じ動作を繰り返し、ついに鍵を開けることに成功しました。ドアを開けて外の光を浴びた時の安堵感は、今でも忘れられません。原因は、長年の使用による内部部品の経年劣化でした。この一件以来、私は家の中の内鍵であっても、定期的なメンテナンスや点検が重要であることを痛感しています。そして、トイレに行く時でも、必ずスマートフォンを持ち込むようになりました。
ある日突然トイレに閉じ込められた私の話