今回は、自動車のセキュリティを専門に扱うベテラン整備士の方に、イモビライザーの重要性と、その限界についてお話を伺いました。「イモビライザーが普及して、自動車盗難の手口は劇的に変わりましたね。昔は、いわゆるピッキングやドアのこじ開けで車内に侵入し、ハンドル下の配線を直結してエンジンをかける、という手口が主流でした。しかし、イモビライザー搭載車では、この直結が通用しない。ECUがエンジン始動を許可しない限り、どうやっても燃料は噴射されませんから。この一点だけでも、イモビライザーがどれほど盗難防止に貢献しているか計り知れません」と、その重要性を強調します。しかし、プロの目から見ると、イモビライザーがあれば絶対に安心、とは言い切れない現実もあるようです。「我々プロの世界では常識ですが、どんなに強固な鍵でも、それを破るための技術は必ず生まれます。イモビライザーも例外ではありません。イモビカッターやリレーアタックといった、電子システムそのものを騙したり、無効化したりする手口が登場したことで、イモビライザー神話は崩れつつあります。特に、リレーアタックはスマートキーの利便性を逆手にとった巧妙な手口で、ユーザーが自宅でくつろいでいる間に、駐車場から車が消えるという悪夢のような事態を引き起こします」。では、私たちはどうすれば愛車を守れるのでしょうか。「最も大切なのは、イモビライザーを過信せず、複数の防犯対策を組み合わせる『多重防御』の意識を持つことです。イモビライザーは、あくまで電子的な防御の第一線。それに加えて、昔ながらの物理的な防御をプラスするのです。例えば、視覚的にも盗難を躊躇させる効果のあるハンドルロックやタイヤロック。あるいは、衝撃や不審なドアの開閉を検知して大音量で警告するカーセキュリティアラーム。これらを併用することで、窃盗犯に『この車は時間がかかりそうだ、面倒だ』と思わせることが、何よりも効果的な抑止力になります」。最後に、彼はこう締めくくりました。「イモビライザーは、現代の車に不可欠な素晴らしい技術です。しかし、それに甘んじることなく、自分の車は自分で守るという強い意識を持つこと。それこそが、究極の盗難対策なのかもしれませんね」。
プロが語るイモビライザーの重要性と限界