それは、忘年会シーズンの賑わいが残る、冷たい風が吹く12月の夜でした。同僚との楽しい飲み会を終え、ほろ酔い気分で自宅マンションの前にたどり着いた私は、いつものようにコートのポケットに手を入れて、鍵を探しました。しかし、指先に触れるのは、空っぽの布地の感触だけ。一瞬で酔いが覚め、血の気が引いていくのがわかりました。カバンの底をひっくり返し、スーツのポケットを全て確認し、今しがた歩いてきた道を数メートル戻ってみましたが、あの小さな金属の塊は見つかりません。時刻はすでに午前0時を過ぎ、エントランスの明かりだけが、私の孤独と絶望を照らしていました。家族は旅行中で、この時間に頼れる友人もいません。スマートフォンを取り出し、震える指で「鍵 紛失 深夜」と検索しました。表示された数多の業者の中から、ウェブサイトの雰囲気が誠実そうで、料金も明記されていた一社を選び、意を決して電話をかけました。電話口の男性は、私のパニック状態を察してか、落ち着いた口調で状況をヒアリングし、料金の概算と到着までの時間を伝えてくれました。「40分ほどで着きますから、暖かい場所でお待ちください」。その一言が、凍えそうな心にどれほど温かく響いたことか。マンションのロビーで待つ時間は、永遠のように感じられましたが、約束通りに作業服姿の男性が到着しました。まず、免許証で私の身分を確認し、改めて作業内容と最終的な料金を提示してくれました。その丁寧な手順に、私は少しだけ安心感を覚えました。作業員の方は、ドアスコープから特殊な工具を差し込み、集中した様子で作業を始めました。それからわずか5分ほどだったでしょうか。「開きましたよ」。その声と共に、ガチャリと聞き慣れた音がしました。あの固く閉ざされていた扉が、まるで魔法のように開いたのです。その場で料金を支払い、ようやく部屋に入れた時の安堵感は、今でも鮮明に思い出せます。翌日、私は同じ業者に連絡し、防犯のため鍵の交換もお願いしました。高い授業料にはなりましたが、あの絶望の夜にプロの技術と誠実な対応に救われた経験は、鍵の大切さと、信頼できる専門家のありがたみを、私に深く教えてくれました。
鍵をなくした絶望の夜に鍵修理屋を呼んだ話